レバノンきっての名門大学。卒業生の進路から透ける、この国のモザイク模様
中東のモザイク国家、レバノンの今⑤
■ベイルート・アメリカ大学
レバノンの首都・ベイルートから、世界にその名を知らしめた教育機関、ベイルート・アメリカ大学(American University of Beirut: AUB)。1866年に設立されたこの大学はその後、アラブ世界での最高学府としての地位を保ち続け、今でも世界中から多くの若き才能を惹きつける。
アドミッション・ダイレクターとしてここで学ぶ若き才能の「入り口」を管理する、サリム・カナーン博士は、この教育機関で学ぶ80か国から集まった、9200人の学生について語ってくれた。
国際性の豊かさが売りのこの大学だが、レバノンが世界に誇る教育機関だけに、約8割の学生はレバノン国籍保持者。だが、モザイク国家・レバノン独特の国籍観として、この国の国籍保持者の多くは、他の国の国籍も持ち、大学生になって初めてレバノンにやってきた学生もいる。残り2割の非・レバノン国籍保持者の半分は、他の中東国出身で、残りは世界中に散らばる。当然、日本人も居る。
殆どの授業は英語で行われるが、勿論、アラビア語やフランス語で講義が行われる科目もある。興味深い事実として、9200人の学生の約半数が、何らかの形で様々な機関から、返済の必要のない「ファイナンシャル・エイド(学費サポート)」という支援を受けている。正式な「奨学金」という形で、学費、寮費、生活費の全てを支給される学生もいるが、この大学のファイナンシャル・エイドは、親の収入と学生の成績の掛け目で決まる、不気味な資金援助制度だ。例えば、億万長者の親を持つ学生は、相当いい成績を収め続けなければ、口座への振込は即座に打ち切られる。逆に貧民街出身の神童たちは、それなりの成績を保っていれば、確実に資金援助を受ける。勿論このゲームは、頭数ベースでは中間層が最も多く、参加者の多さ故の、熾烈な戦いが繰り広げられているという。
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